遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

2012-01-01から1年間の記事一覧

ショパン 『[舟歌』  幸福の瞬間

あなたにとって幸福の瞬間とは何だろう?多くの女性にとっては、ウエデイングドレス姿での結婚式が幸福の絶頂の瞬間のようだ。では、実生活においてはどうだろうか。私は、二人きりで手漕ぎボートに乗って、木陰で昼寝する瞬間が至福のときだと思っている。…

銀行の支店長の娘さんのこと

音楽教室に、ある地銀の娘さんが来ていた。三つ編みがよく似合う、スラっとしたかわいい女の子だった。あるとき、家に呼ばれて母とお邪魔してみると、そこは質屋の蔵のような広い建物の支店長社宅だった。弟さんもいて、とても話しやすそうな一家だった。銀…

再び恋をする決意を促した曲  Shine It On Me

私は、予備校時代、大学1~2年と恋をせずに過ごした。気になる人がいない訳ではなかったがあの人のことを想い、思い留まった。それでも大学3年の春になりこの人なら仕方あるまいと思うようになった。その人は、同じ大学の文学部の人だった。お父さんが学…

覚悟を迫る一途な恋

私は、オフイスラブはしない主義だが、この人なら仕方あるまいと覚悟を決めたことが一度あった。その人は、私にとって理想のタイプだった。だが、事情があり、彼女への想いを一切断ち切り、努めて悟られぬように装った。あるとき、私は、彼女と、あることで…

Berceuse Op.16 for flute - Faure (フォーレ 子守歌)

学生時代に初めて聞き、一時期虜になった曲である。絵を描き、詩集を読んでいるとき疲れているときに昼寝しながらよく聞いた。曲の最初とそれ以降で音程とスピードが微妙に変わるところがあり時間の経過とともに景色が遷ろう、モネの絵を見ているような錯覚…

I'm not in Love

私は、学生時代、恋をしない時期を3年間過ごした。それは、夢中だった女の子のことをきれいさっぱり忘れ、心から好きだったあの人に再び出会うために私が選んだ事だった。何人か女の子から告白らしきことを受けたが、私の決意は固かった。その女の子と付き…

人生の分岐点(青春編)

振り返ってみてわかることだが誰でも分岐点はある。私は、大学入試の半年前に、夢中だった彼女の友達から別れを催促する手紙が届いた。想いがいつもすれ違い、このままずるずるやってもうまくいくはずがなく、そして、もう振り回されるのは御免だと考えたの…

The Beatles  「 She's Leaving Home」

詩人 田村隆一の名詩で「正午」という作品がある。――――――――――――――――――――――――――正午 窓の外にあるもの、 火と石と骨と、 歯と爪と毛髪のなかに刻まれたわれわれの「時」、 驟雨と予感のなかで、寝台から垂れさがる、 彼女の腕 窓の外にあるもの、 それは死な…

目は決して忘れない

あの人は、たった一度遊んだ幼なじみだった。あの人が私の手をとり、一緒に遊んだのだ。嘘ではない。本当なのだ。そして、商品の上ではしゃいでいるところを見つかりあの人の父から厳しく叱られたので私もあの人も互いの目をしっかり見るしかなかったのだっ…

ルイのテーマ 失恋を癒す歌

誰でも一度くらいは失恋の経験はあると思う。私は、大学3年のときの失恋が一番堪えた。お互いに好きなのに、好きなのがわかっているのに、なぜかうまくいかない。その理由は自分にあった。私が、愛すべき人と中途半端に別れてしまったために誰かを好きにな…

母の命日に聴く曲

聴くだけで、遠い昔を想い出す曲がある。ラベル作曲の、「亡き王女のためのパヴァーヌ」である。この曲は、ピアノ曲としてあまりにも有名だが、マクサンス・ラリューのフルート演奏が優美で透明感があふれている。私は、古いアルバムを開き、亡き母に抱かれ…

写真をとりたい場所

カメラを数年前に買い直し、レンズを揃えてみた。撮りたい場所は、実はそんなにない。今住んでいる街はいい街なのだが、何かむなしいのだ。想い出の出生地想い出の近所想い出のバス停想い出の通学路想い出の市庁舎想い出の校舎想い出の店想い出の建物想い出…

クープランの墓

ラヴェルというクラシックの作曲家がオーケストラ用に作曲した管弦楽曲に、「クープランの墓」という名曲がある。第一次大戦で戦死した知人に捧げる曲だとされている。この曲の第一楽章は、光が満ちあふれる世界がめまぐるしく移り変わる、それでいて感傷を…

50歳の誕生日に見た夢

私は、40歳の誕生日に、3日間続けて、あの人の夢を見たが、実は50歳の誕生日にも夢を見た。今度は母が夢枕に立った。寝入った直後だったと思う。突然、遙か上方から、大きな白い紙袋が降りてきた。その中に、臙脂色の物と白い物があることを私は確認し…

通りゃんせ

日向敏文の曲の中に、なつかしい曲をモチーフにした、変奏曲「Les Enfant」がある。桜の花びらがハラハラと舞い散るような雰囲気の中で「通りゃんせ」が始まり、やがてときが経過し、幼友達の女の子との間に芽生えるほのかな恋心を暗示しているようである。…

ふるさとはありがたいもの

同じものでも買う場所によってそのモノに対する印象ががらりと変わる。私は、墓参りのついでに時間をつくり、買い物をしてから帰るようにしている。行く場所は、いつも決まっている。帽子屋と本屋に寄り、必要な買い物をする。なぜなら、ふるさとでした買い…

遠い山並み

晴れた日は家から遠い山並みがくっきり見えた。いつも上の方が冠雪しているようだった。慣れ親しんだ風景だった。が、母の死をきっかけにまったく想い出せなくなった。それから20年近く経過し、ある晴れた日にふるさとに向かう途中、丘の上を車で通り過ぎ…

追憶 2月14日

2月14日は残酷な日だ私にとってもあの人にとってもあの日を境に、歯車がすべて変わってしまったのだ。その想いは一生ついてまわるのだ。私がしたことはあの人を悲しませるだけで、あの人は、たぶん私のせいで生涯独身で過ごし、私は、後悔の念で一生を終…

祥子ちゃんのこと

オルガン教室に4年間ほど通った時期、同じ教室の女の子が近所に住んでいることを知り、母親同士仲良くなり、私は、祥子ちゃんの存在を知ることになった。祥子ちゃんは、一人っ子。お父さんは学校の先生だったと思う。目がくりっとして黒目がはっきりしてい…

彼女とデートしたかったレストラン

もし、もう一度昔に返って、彼女とデートできるならあの店にしたいと思っていた店があった。その店は、高校時代、洋食のコースメニューのレストランだった。店の名は、有名な水彩絵の具メーカーと同じだった。外から見える店内はしゃれていて、なんとなくパ…

祖母の夢

私と祖母は、一度だけ会い、一度だけ話しかけられた。たったそれだけの関係だったが、一度だけ祖母の夢を見た。それは、祖母が亡くなった早朝未明に、起きた。田舎の農村の広い道を一族と思われる白装束の集団が二列に並んでゆっくり歩いていた。その直後に…

婚約の瞬間

私は、20台半ばで結婚式をあげた。春が来て、婚約することを決意し、彼女に連絡をとり、待ち合わせした場所は、学生時代から通っていたJazz喫茶だった。私は、約束の5分前に店につき、カフェオーレを注文し、彼女が来るのを待った。彼女は、約束の時…

直子ちゃんのこと

小学校1~2年の頃、私は近所の直子ちゃんと仲良しになった。直子ちゃんの家は、大きな3角屋根の家だった。お父さんは公務員で苗字は有名な武家と同じだった。明るくまったく気疲れしない子で、近所の意地の悪い女の子とは別格だった。私は、直子ちゃんが…