日向敏文の曲の中に、なつかしい曲をモチーフにした、変奏曲「Les Enfant」がある。
桜の花びらがハラハラと舞い散るような雰囲気の中で
「通りゃんせ」が始まり、
やがてときが経過し、
幼友達の女の子との間に芽生えるほのかな恋心を
暗示しているようである。
さて、
島崎藤村の「初恋」という名詩がある。
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まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
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林檎畑の木の下で「通りゃんせ」が終わり、
家路についた時に、ふと振り返った、幼友達が
ほおを紅潮させていることに気づき
恋のような恋でないような
不思議な気持ちになった
自分の気持ちを見事に代弁している詩である。