遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

婚約の瞬間

私は、20台半ばで結婚式をあげた。
春が来て、婚約することを決意し、彼女に連絡をとり、待ち合わせした場所は、学生時代から通っていたJazz喫茶だった。

私は、約束の5分前に店につき、カフェオーレを注文し、彼女が来るのを待った。
彼女は、約束の時間のほぼ30秒遅れてやってきて、ホットコーヒーを注文した。

私は、まっすぐに彼女を見つめ、「結婚して………?」と彼女に聞いた。
彼女は、しばらくして、小さな声で「はい」と頷いた。

その時、サラ・ボーンの渋いボーカルの「Copacabana」が流れた。
私は、その時まで、こんな穏やかな曲があるのを知らなかった。

それからしばらくして、私は彼女に、あることを聞いた。
もちろん彼女の答えは、話すまでもない。

私は、記念に、サラ・ボーンの「Copacabana」のLPを買った。

時々ではあるが、この曲を聴くと、若かった時代のことを想い出す。
そして、有り難いことに、あの場所にあの時の喫茶店は今もあるのだ。