聴くだけで、遠い昔を想い出す曲がある。
ラベル作曲の、「亡き王女のためのパヴァーヌ」である。
この曲は、ピアノ曲としてあまりにも有名だが、マクサンス・ラリューのフルート演奏が優美で透明感があふれている。
私は、古いアルバムを開き、亡き母に抱かれた幼児の私を見る。
その写真には、いつも希望と光があった。
母が生きていた間、私は確かに護られていた。
そんな母だったが、病に倒れ、
奇跡的に回復はしたが、
結局、この世の人ではなくなった。
そのときから、私は、光を見失った。
それから10年近く経ち、
失意のときを迎え、
漸く、記憶を失った虚像の自分に気づくのである。