遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

人生最初のレクイエム 母の死

水曜日は母の命日だった

その日は、あの日と同じように
雪がしんしんと降っていた
静かなよるだった

あの日の朝、
母の容態が悪化し
母は意識を失った
母はついに帰らぬ人となった

私に出来たことは母の手を握ることだけだった

私は病院会計を済ませ
遺体搬送を手配し
遺体搬送車を見送り
とりあえず車で自宅にもどった

雪は降り続いていた
外は静かだった
何も聞こえなかった
どういう道順で家に戻ったか覚えていない
気がついたら家に着いていた

それから遺体搬送車を追いかけるように
亡き母が待つ、故郷に向かった

雪はどんどん激しくなった
途中何度も吹雪で前が見えなくなった
泣きたくなった
私は、空を仰ぎ、手を合わせた
亡き母が近くで見守ってくれていることを信じた

物音一つしない静かな夜だった
動いているのは私と私の車だけのようだった

私は祈るような気持ちで、ハンドルを握り
ついに夜明け前に故郷にたどりついた

街は何年たっても高校時代のままだった
母に手を引かれ歩いた街並みはまだ残っていた

私は、通りを過ぎるたびに
母と生きた記憶を辿った
涙がとまらなかった
何も聞こえなかった
気持ちを落ち着けるためにメイン通りを二周し
やっと涙を封印した

しばらくして
亡き母が眠る家に着いた

静かなよるだった