遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

想い出の喫茶店

その喫茶店は、母に手を引かれて通った洋裁学校の通りの並びにあった。
高校時代に開店し、毎年のように店の外で奇麗な鉢植えを並べていたことを私は覚えていた。

店は、カトリックの修道女のような信心深そうな女性一人でやっていた。
店の中は、全てが凝っていた。
壁際に、何枚もの油絵が立派な額とともに飾られ、私はその絵を見るのが楽しみだった。
床はビロードの赤い絨毯。
天井が、芸術的センス溢れるデザインだった、格調高いシャンデリア照明。

圧巻だったのは、数々の鉢植えだった。
その中に桃の盆栽があった。
直径15cmくらいの鉢に入った盆栽の木一杯に花が咲いた時は見事だった。

私は、仕事で行き詰まった失意の時代、
墓参りした後、この店で何度か昼食をとった。
高校時代と変わらぬ店構えであることを見る度に、いつも胸がいっぱいになった。

茶館.jpg

オーダーしたのは、コーヒー付きの日替わりの松花お弁当だったと思う。
私は、食べながら、母の弁当を食べているような気になった。
夏の暑いある時、あんみつを注文したことがあり、笑いながらつくっている後ろ姿が母のように見えた。

それから数カ月後、その店は閉店した。

私が遠くから来ていることを知り、見送ってくれたことがあり、それが私へのお別れの挨拶だったのだろう。

http://blogs.yahoo.co.jp/koukinkikaku/65535060.html