遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

「課長 島耕作」の想い出

会社帰りに寄った喫茶店には、たいてい「課長 島耕作」という漫画本が置いてあった。
先日行ったラーメン屋にもそれはあった。

茶店で読み始める前まではただの漫画本と馬鹿にしていたのだが、会社でいろいろあり、酒を飲みたいところだが飲んで帰る気になれず、喫茶店を選んだ。店は石造りの建物、店名は、シャーロック・ホームズだったと思う。スパゲテイを注文し、1日1冊のペースで読んだ。一冊読み終えてなんとか気分が落ち着いた。少なくともその店には20回くらい通った。

島耕作はかなりもてて出世する男という設定なので、いろんな女性が場面場面で登場する。
もてて、出世するなんてズルいなどの評判があったくらいだ。最初は誰でもそういう印象を持つ。そう思いつつ、つい読んでしまう魔力がこの本にあった。
そんな美味しい話が自分にも起きることなど、当時は考えもしなかった。

 

島耕作の女性遍歴がエグい!女にモテて出世するなんて羨ましすぎっ!
https://nagoyan55.com/5338.html

 

妻から、離婚に応じるとの話を何度も聞かされた時期があった。
同時期、私は上司から理不尽な扱いを受け、地方に左遷された。

すると、今まで無関心を装っていた女性の一挙一動が急に身近なものに変わった。

 

彼女は、七歳年下、社内で評判の美女。
彼女のことは、入社した年から知っていた。面識はあった。
何気ない仕草、話しぶりから彼女の気持ちにずっと気がついていた。
が、私は彼女の幸福を願い、無関心を装っていたが永久に続けることは不可能だった。

 

そんな彼女も話をしている時の私の気持ちが手に取るようにわかるようだった。
何を話しても楽しく、時間が過ぎるのを忘れるほどだった。

ホテルで会食を済ませた後、並んで歩いている時、漫画上の出来事と同じことが自分にも起きたと思った。
この人なら仕方ない、すべて偶然ではない、運命的なものかもしれないとさえ思った。

いろいろ考えた末に、妻からの要求がない限り、自分から壊すことはしない方がいいのではないか。
彼女は多くを獲得するだろうが、自分の方は得るものよりも失うものの方が多く、万が一破局になった場合のことを考えた。

 

最終的に、彼女との交際を通じて、島耕作のように簡単に変えることができない自分であることを思い知ったのだった。