遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

M子の涙

私は女の涙は好きではない。涙を見ると、その主張に負けそうになるからだ。

しかし、M子の涙は違った。潔かった。

私とM子は、30年前に出会った。一目見て、早まったと思った。しかし、どうにもならなかった。
あるとき、電話で問い合わせをしたら彼女が怒ってしまった。怒る理由がわからなかったが、なんとなくピーンとくるものはあった。
私は、彼女が私の想いに気づかず、彼女が誰かと結婚してくれることを望んだ。
しかし、彼女は結婚しないままだった。

あるきっかけで彼女と二人きりで食事をした。昔のことは忘れて、食事をしながら話をした。彼女は、どの話題も本音で話しをした。何を話しても面白かった。時間があっという間に過ぎていく感じだった。

でも、どうして引き合うのかわからなかったが、彼女が長い髪をかきあげ、他の誰よりも顔の形、雰囲気、スタイルがよく似ていることを指摘したので納得した。
本気になりそうな気がしたので、どうにもならないことだけは伝えた。

それから会う機会はなかったが、数年後、街で会社帰りの彼女とすれ違った。
彼女は少し前に私のことに気づき、私はすれ違いざまに泣いている彼女にようやく気がついた。
が、彼女は私が振り向くと、急ぎ足で去っていってしまった。

今も潔い、「いい女」だった。