遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

あの人の店は粋だった

あの人の店は、地元では知らぬ者がいない老舗で、昔は、従業員を雇用していたが、今は、親戚一同だけでこじんまりと営業している。

私は、自分が誰であるか名乗ったことはないので、あの人以外のあの店の人たちが、私のことを知るはずはないのだが、その老舗たる所以を思い知らされたことが何度かあった。

あるとき、息子のために、それなりの品物を購入した。そのときは、ケースが必要なことは承知していたがあえて買わず会計をお願いした。
それから、何年か過ぎ、ある用事のために、その品物を息子にプレゼントしたのだが、包装をあけてみると、なんとケースに入った品物が出てきた。ケース代は支払っていなかったのに!である。

私は、正直驚いた。

そして、あの人がどういう人だったのか、やっと理解できた。

なんとなく近寄りがたく、ツンツンして高嶺の花だった人が、実は粋で思いやりの塊のような人だったのだ。