あの人の店は、地元では知らぬ者がいない老舗で、昔は、従業員を雇用していたが、今は、親戚一同だけでこじんまりと営業している。
私は、自分が誰であるか名乗ったことはないので、あの人以外のあの店の人たちが、私のことを知るはずはないのだが、その老舗たる所以を思い知らされたことが何度かあった。
あるとき、息子のために、それなりの品物を購入した。そのときは、ケースが必要なことは承知していたがあえて買わず会計をお願いした。
それから、何年か過ぎ、ある用事のために、その品物を息子にプレゼントしたのだが、包装をあけてみると、なんとケースに入った品物が出てきた。ケース代は支払っていなかったのに!である。
私は、正直驚いた。
そして、あの人がどういう人だったのか、やっと理解できた。
なんとなく近寄りがたく、ツンツンして高嶺の花だった人が、実は粋で思いやりの塊のような人だったのだ。