遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

ささやく声

私は、三つのささやく声に出会った。

一つ目は、
あの人と対面した時に出てくるささやき。
本当はあってはならないことなのだが、
耳の奥で、「この人はあなたが結婚する人ではない。」と何度も何度も囁かれた。

その声を聞くと、魔法にかけられたように私は、それ以上どうすることもできなくなった。

今となっては、悔しいことだが、否定できない事実だ。

そして、二つ目は、妻となった人との出会いの時。

「この人は、あなたが結婚すべき人です。勇気を出してアタックしなさい。」と繰り返し囁かれた。

彼女は、初恋の人が突然の転校を告げた晩に、夢の中で現れた女性に、服装、髪型、顔の形まで瓜二つだった。

あの夢から10年が経過していたが、夢で出会った女性そのものだった。

だから、私は迷わなかった。
何度断られても不思議とめげなかった。

そして、結婚した。

いろいろ悩んだことはあっても、結局私は、ささやく声に従っただけだった。

ところが、
過ぎ去った今になって、
ささやく声は
これでよかったのだろうかと
不意に訪れる。

そこで、困った私は、
ふるさとに残したあの人のことを思い出し
あの人からどんな人と結婚したのかと
会って聞かれる前に
自分の真実をこうして伝えようとしているのかもしれない。