遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

床屋の想い出

振り返ると
何軒かの床屋に世話になった記憶がある。

小学生時代は銭湯の隣の床屋。
新入社員時代は、街中のしゃれた床屋。
本社勤務時代は、社屋にあった床屋。
最近は自宅近くで済ませている。

従って、何軒も変えている訳ではない。
一度ここと決めたら、そう変えることはない。

ただ、例外的に出先で、時間的に余裕がある時に、床屋に駆け込むことがある。
野田首相が新橋のJRホーム下の床屋が行きつけの店と語り、一国の首相ともあろう人が庶民的な安いところでやっているという理由でみっともないと言われたことがあるが、実は、私も何回かお世話になった。
時間換算的には安いわけではないのだが、実に手早くやってくれる。

しかし、床屋はそういう店ばかりではない。
一軒家の出店みたいな構えの、昔ながらの店もある

ある時、銀座商店街の並びの床屋に行った。
この店は、随分昔からあるようで一見の私を
ごく普通のお客さんごとく扱い、髪を切り整えた。

もちろん、世間話をしながら。
店主はあることに気がついていたのであろう。
店主は、一見の客に過ぎない私が旭川生まれ旭川育ちであることをことのほか喜んだ。
仕事で行き詰った私をいたわるかのように
言葉を選び、再び時が来るまで待てばなんとかなるような言いぶりだった。
父親みたいな人だった。

鏡に映る自分は、いつにもなく爽やかで
やる気に満ちていた。
床屋に行ってすっきりした気になったのは
後にも先にも1回しかない。

あれから10年。
店主はもう若くはない。
何年も店を続けられるとは思えない。

再び、この床屋に行くことはないが
親切にされた想い出を忘れないために
近いうちに写真をとりに行こうと思っている。