遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

参考書の想い出 古文研究法

受験時代の想い出の一冊に小西甚一という国文学者が書いた『古文研究法』という参考書があった。
この参考書、受験生には絶大に支持されていると評判の一冊という理由で購入した。
しかし、当時の私には、難し過ぎた。

その後、転勤が何度か続き、この本を読む機会はないだろうと、考えた時期に、捨てた。

しかし、縁とは不思議なもので、ひょんなことから、この学者の書いた、他の本を偶然知ることとなり、あの受験参考書の著者であったことを知らされた。

さらに調べていくうちに、多方面にマルチタレントな国文学者だったことを知り、何も知らず評判だけで受験参考書の品定めしてしまった自分を恥じている。

この参考書、今は、筑摩書房から文庫本で復刊されている。
受験生当時、まえがきに書いてあったことはまったく記憶にないが、読み直してみて、著者の意図を丁寧に読む心の余裕が当時の自分にあったら、その後の人生は違ったこととなり、好きだった人を悲しませるような事には至らなかったかもしれないと、反省している。

改めて、本の目次を読み直してみた。
信じられない世界がそこにあった。

目次は、
第一部 語学的理解
第二部 精神的理解
第三部 歴史的理解
とある。

当時の私は、こういう三部作の構成になっていることに気づかず、用例紹介・解釈の個々のページを見つめているだけだった。これでは、著者のせっかくの意図が伝わるはずもない。

今の自分にも当てはまることだが、心の余裕が何事にも必要ということを、数十年の月日を経て思い知らされた。

過ぎたことは、取り返しが効かないことばかりではあるが、自分には当時難解で、凡そ理解するに至っていなかった、この参考書が余生の伴侶みたいない存在になる、この巡りあわせは偶然とは思えない。