遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

想い出の靴

私には想い出の靴がある。
25年以上履き続けた冬靴がそうなのだ。
だが、綻びがひどく、歩行に差し支える事態となったので捨てることにした。

ただ捨てるのはもったいないので、その靴を履いて、最後の散歩をすることにした。

その靴とは、あのリーボックが日本市場デビューの年末に販売した、スエードのトレッキングシューズ風の靴である。
その靴を購入したのは、地元の老舗だった。当時、少し給料があがり、それまで1万円もする靴など買ったことがなかったが、スエードで耐久性ある靴だと店員にすすめられ、私もデザインと機能性に魅了され、衝動買いし、それから、その靴との長い、長い、付き合いが始まった。

少し重いが、構造的にトレッキングシューズ並に堅牢で、薄い靴下で冷たい思いをしたことがなく、履き心地がいつもふわっとして、凍ったアイスバーンで転倒したことがなく、25年たっても靴底がまったく摩耗しない優れものだった。

10年ほど前に、スエードが劣化しているのようだったので、捨てるつもりで山菜採りに履いた時期があったが、それでも春先に泥をきちんと落とし、例年保管していたせいか、靴紐を取り替えた以外、機能的な劣化は一切なかった。

そして、今、その靴は役割を終え、最期の時を迎えようとしている。


想い出の靴

私は、想い出の靴を履いて最期の散歩に出かけた。

私は、
この靴が刻んだ
最初の足跡から記憶を辿り始める。

あの時も
この時も
この靴を履いていた自分がいたことを知る。

本当に
この靴は
たくさんの場所を歩いた。

10年ぐらい前に一度捨てようと思ったことがあった。
が、思い直し、靴紐を取り替え、なんとなく別の靴のように見え、
それから、また付き合いが始まったた。

そして、今、
最期の散歩を終え
この靴と共に歩んだ
希望にあふれた自分を呼び戻したところで
自宅に着いた。

本当にこの靴とは長い付き合いだった。
自分の半生そのものだった。
こうして無事で健康でいられるのは
この靴が分身となってくれていたおかげなのだろう。

それから
私は
記念の写真をとり
靴と私の絆を消さないために
その靴紐をはずし
次に履く予定の靴に付け替えた。

しかし、
私は、その靴を
ゴミ袋に入れることが
なかなかできなかった。