遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

最後のラブレター Part2

人生二番目の記憶は、たった一度一緒に遊んだあの幼馴染みの人との出会いだった。

確か四歳の時だったと思う。
風が強く、小雪が舞う、師走の週末、買い物の用事で父に連れられ、不思議な屋根の形をした大きな店に行った。
父が価格交渉している間、私は父に言われ、二階事務室の入り口横のソファーで一人腰掛けていた。
事務室と店の間は、上部に窓があり観音開きのスプリング開閉のドアで仕切られ、熱が逃げないよう透明の厚手のビニールシートがドアを覆っていた。
事務室には、ドラム缶ぐらいの大きな石炭ストーブがあり、店の人が何人か暖をとっていた。
黒の肘当てをした女性の事務員が、売り上げ伝票のようなものを持って、事務所と店先を行ったりきたりしていた。
私がソファに腰掛けると、中の事務所から、同じ年くらいの赤いコートを着た、2人の女の子がやってきた。そして、そのうちの一人の子が私の前に立ち、私の顔を見つめ、ほどなく私の手を引いた。
不思議なことに、その子は一言も喋らなかった。仕草だけで私に遊ぼうと誘った。
最初は、ソファーの上で遊ぶように誘った。次に、彼女は、新作のベッド?の上に私を連れて行き、一緒に飛び跳ねる様、催促した。
ところが、あまりにふざけすぎたようで、店の主人に、その女の子が厳しく怒られてしまい、二人でじっと見つめ合うしかなかった。
見つめ合った時間は五分間ぐらいだったと思う。
私は、見知らぬ女の子に手を引かれたこと、一緒にはしゃいたこと、長時間何も言わず見つめ合ったことは、後にも先にもこれが最初で最後だった。

私は、忘れまいとしてあの子をじっと見つめた。
あの子もそうだったに違い。

それ以降、私は、この強烈な出来事を夢に見続け、「たった一度一緒に遊んだ幼馴染み」の存在を意識することになった。