蕎麦の店はたくさんあるが、数十年続いた蕎麦屋が閉店した。
その蕎麦屋は塾帰りの途中にあった。
店の名前が一風変わっていて、
看板と暖簾にこだわりがあるようで、ずっと憶えていた。
今年の春先、用事で近くを通りかかった際、店の看板が消えたことに私は気づいた。
何気なく、店の方を眺めていると、蕎麦職人風の白い服を着て、白い帽子を被った75歳くらいの方が、泣きはらしているような表情で道を歩いていた。
記憶によれば、私はこの店に一度入ったことがあるようだ。
味は、まったく憶えていない。が、私は、この店の名前を気に入っていた。
店主のこの店の名前に賭けた意気込み
そして、店先にいつもあったシルバーの軽自動車のことは
看板が消えても忘れることはないだろう。