遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

墓参り 一編の詩

水曜日に墓参りした。
生い茂った雑草を抜きながら、ふと、一編の詩を想い出した。

嵯峨信之という詩人の「旅の小さな仏たち 他三編」である。

愛する人の死、葬儀、火葬、墓参りに仏教的要素をブレンドし、遠い光に乗って死後の世界に旅立つ世界を描いた詩である

傑作と思う。


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旅の小さな仏たち 他三編  嵯峨信之


何も数えなくていい
指は五本ずつある
二つの手を合わせ同じものが十本
それを折りまげずに真っすぐにして 向い合せて
指の腹と腹 掌と掌をぴったりくっつけて両手を閉じる
その中に何を包むか
旅の小さな仏たち
その群れにまじってたち去っていくおまえに
ただ一度のさようならを云う
さようならと


遠いひかりになっていくおまえの母
おまえはそのひかりに乗って母のところへ帰るという

ぼくはぼくの手に墓を建てる
おまえの体温がいつまでものこっているこの掌の上に



火の中に投げこむ
魂の一束
燃えあがる炎のむこうにひろがる時雨れる沙州
その沙州にぽつねと立っている一基の墓だけが
口もあれば鼻も眼もある


遠い記憶のはてにただ一つの名が残った
その名に祈ろう
晴れた日がこれからもつづくように