遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

母と父の夢  伊良子清白「漂泊」

少し前のことであるが、亡くなった母と、まだ生きている父が一緒にいた夢を見た。

古い家に私が居て、インターホンを鳴らし、玄関を開けたところで夢は終わった。
久しぶりににっこりしている母も父を見て、私はほっとした。
三好達治「詩を読む人のために」(岩波文庫)にて、明治時代の、伊良子清白という詩人の傑作を見つけた。親の恩を振り返る歳になったが、こういう感覚で詩が書ける人はそういない。
伊良子清白は医者だったそうだ。
https://blogs.yahoo.co.jp/fifthjulyroad/7514748.html
こういう感覚的に研ぎ澄まされた医者なら、難病をピタリと読み当てる、そんな気がする。
青空文庫にて全文読める。
漂泊
蓆戸むしろどに
秋風あきかぜ吹ふいて
河添かはぞひの旅籠屋はたごやさびし
哀あはれなる旅たびの男をとこは
夕暮ゆふぐれの空そらを眺ながめて
 いと低ひくく歌うたひはじめぬ
亡なき母はゝは
處女をとめと成なりて
白しろき額ぬか月つきに現あらはれ

亡なき父ちゝは
童子わらはと成なりて
圓まろき肩かた銀河ぎんがを渡わたる
柳やなぎ洩もる
夜よの河かは白しろく
河かは越こえて煙けぶりの小野をのに
 かすかなる笛ふえの音ねありて
旅人たびびとの胸むねに觸ふれたり
故郷ふるさとの
谷間たにまの歌うたは
續つゞきつゝ斷たえつゝ哀かなし
大空おほぞらの返響こだまの音おとと
地ちの底そこのうめきの聲こゑと
交まじはりて調しらべは深ふかし
旅人たびびとに
母はゝはやどりぬ
若人わかびとに
父ちゝは降くだれり
小野をのの笛ふえ煙けぶりの中なかに
 かすかなる節ふしは殘のこれり
旅人たびびとは
歌うたひ續つゞけぬ
嬰子みどりごの昔むかしにかへり
微笑ほゝゑみて歌うたひつゝあり