遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

祖母が愛した名店

私の祖母は大変信心深い人で、暇を見つけてはお寺に立寄り、住職と世間話するくらい、社交的な人だった。
お寺の前を通る時はきちんと礼をすることを欠かさない、今の年寄りがしないようなことを当時きちんとやっていた。
宗派は、真宗大谷派。後年、ある用事で、祖母の実家の宗派だった浄土真宗本願寺派のお寺に問合せすると、檀家ではないが寺によくお見えになられた人ということで、後を引き継いだ住職に覚えられていたほどだった。
祖母の話題は、東旭川方面に住む親族のこと(兄弟姉妹?、いとこ?)、仏事に関するもの、本願寺派に関するもの、特定の仏壇店に関するものが多かった。話題はこれら四つの繰り返しだった。本願寺派に関するものは結構難しい内容だったように思う。
仏壇店の話はどうだったかというと、先日その店に立ち寄った際、こういう話になった、ああいう話になったという内容で、来る度に母に話していた。(50年くらい前の話)
作法とはそういうものだと繰り返し語った人だった。そうやって、祖母は、伝統やしきたりを母に伝えようとしたことになるのであるが、こういう話題が多いことから、祖母はその店の常連客だったような気がする。その仏壇店で、年に数回、線香やろうそく、その他の品物を買うついでに、店のどこかでお茶を飲みながら、帰りのバスが来るまでの小一時間、店の誰かと話しこんでいたのではないか。明治の人たちは、そういう付き合いを好んだような気がする。当時の店の人たちは、祖母の名前と顔、宗派を覚えているはずだし、店に親戚か親しい知り合いでもいるのだろうと子供心に思ったくらい、店の名を何度も聞かされた。
祖母は、その店の商品について品物が良いと言っていた。
だから、線香や数珠などを購入する際、迷わずそこに行った。値段が高いとか安いとかそういう次元の問題ではない。祖母の引き継ぎ事項なのである。
祖母は、店の名を語りつつ、私に仏事の存在を伝えようとしたのである。
その店、この3月末で、創業100年を以て廃業するとの情報を突然知った。チラシには、廃業・完全閉店と書いてある。
その店は、この業種では、旭川では誰もが認める一番店、良心的で商品知識が豊富なことで知られている。廃業せざるを得ない世情であることに反発を覚えている。
こういう良心的で、間違いがない店がなくなってしまうことについて、後で旭川全体の損失だったと多くの人が気づかされるだろう。
道新は1月24日に、建物が近い将来取り壊されることになるだろうという趣旨で報じている。
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創業100年に幕 万感の思い*家具・仏壇販売の宮川本店 3月末閉店*地域に愛された店舗 取り壊しへ
【写真説明】1937年(昭和12年)に建てられた宮川本店の「家具の宮川」
掲載 2018/01/24
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道新が、万感の思い、地域に愛された店舗と報じていることから、多くの人から惜しまれ廃業に至ったようだ。老朽化により、取り壊しとなることはいずれ避けられないにしても、関係者の胸中察するに余りあるように思う。
祖母の時代を含め、相当の存在感あった店なのであるから、できることがあれば何かしたい、協力したいと考えている顧客はたくさんいるのでなかろうか。そんな気がしてならない。