遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

コンサートの想い出

私にとって名曲とはこの曲。
ウイスキーでも飲みながら聞いてみたい曲である。
演奏解説をすると、カポタストを使わず指の動きがスムーズな、最初の方がテクニック的に上手いが、2番目の方が音色が良い気がする。
実際、コンサートに行って指の動きを観察しつつ聴いたことがあるのでわかるのだ。
場所は、街中のちょっとした小ホール。チケット代は3000円。
人待ち顔の、見覚えのある女の子が、一人入口近くで立っていた。
その女の子が誰だったのか、思い出せなかった。
その日はこの曲が似合う冬ではなかった。
それでも、ギター演奏は冴え、難しい曲を難なく弾いていた。
会場は室内だったが、無風の星空の下で聴いている気分になった。
多くを語らないが、演奏している姿から、演奏者は雪国を愛していることが伝わってきた。
しんみりした雰囲気の中、コンサートは続いた。
誠実なる姿での演奏に続いて
整列した場面で行われるような拍手が続いた。
拍手が10秒くらい続き、止み
演奏者はしばし沈思黙考した後、次の演奏に入った。
それが何度か繰り返された。
アンコールは3曲してくれたと思う。
目の前の演奏がレコードで聞いたものと寸分違わぬことに満足して私は会場を出た。
出口で、再び、どこかで見かけたような女の子が一人うつむいて立っていた。
どう見ても、見覚えのある女の子だった。
私は、その女の子と話がしたい気が起きなかった。
帰宅後、演奏会での出来事を振り返り、私はその女の子に二度と会わない決心を改めてしたのだった。