遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

母と子の絆  三好達治 乳母車

母の命日にふさわしい詩を一つ選んだ。

三好達治の名詩に「乳母車」がある。

この詩は、
紫陽花、並樹、風、渡り鳥
という自然素材を用い
記憶の世界にある乳母車の
視覚的イメージを最初に提示している。

これらの素材をセットした状態で
泣きぬれる夕陽
つめたき額
淡くかなしき
という言葉によって
心象的なイメージ
を巧みに重ね合わせている。

詩人は
遠い昔に
あの世に旅立った母を回顧し
母と子の絆が永遠であらんことを
願っているようである。


乳母車 三好達治(詩集「測量船」)

母よ―
淡(あは)くかなしきもののふるなり
紫陽花(あぢさゐ)いろのもののふるなり
はてしなき並樹(なみき)のかげを
そうそうと風のふくなり

時はたそがれ
母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ
泣きぬれる夕陽(ゆふひ)にむかって
轔々(りんりん)と私の乳母車を押せ

赤い総(ふさ)のある天鵞絨(びろうど)の帽子を
つめたき額(ひたひ)にかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり

淡く(あは)かなしきもののふ
紫陽花(あぢさゐ)いろのもののふる道
母よ 私は知っている
この道は遠く遠くはてしない道