遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

甃のうへ 三好達治

三好達治の詩には、他の詩人にない、写真のような鮮明な心象風景がある。
言葉と凝縮した一瞬が微妙にマッチした、幻想世界でもある。
たとえば、「甃のうへ」(いしのうへ)という詩。
散りゆく桜の花びらと少女の一挙一動を重ね合わせ
詩の一行それぞれが、京都の名所の写真を眺めているようである。

うつろいゆく季節をもののあはれという切り口で、少女の姿を少し離れた場所で見る主人公の姿は
高校時代の自分を見ているようである。
場所は、清水坂のような坂道か哲学の道あたり。
その少女は、白い振袖姿のあの人のようでもある。


甃のうへ 

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫(あし)音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさしひさしに)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ