遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

想いと諦観

私は、4歳のときにあの人に出会った。

あの人は、私を見るなり
私の手を引き
何も語らず
身振りだけで
一緒に遊んだ
ただ一度遊んだ幼馴染みである。

それ以来
あの一途な眼差しを忘れたことはない。

毎年のように夢に見ては
想い出し
その後も
病院の待合室、街角、英会話塾で出会っていたように思う。

そして、二人は高校で再会した。

私は、あの眼を見て、直ぐに確信した。
どこかで出会っていると…………
私は、名を探した。

その名は、間違いなく、私の手を引いたあの人だった。

あの人は、
私に出会うまで誰にも恋らしい恋をしなかった。

信じられない話であるが、

あの人は、私の手を引いた以降、
たぶん、私以外の人に関心を持たなかった。

あれから
どうにもならないことが繰り返され
無駄に数十年が経ち
あの人を悲しませただけだった自分が
ここにいる。

こうしている間も
やり直しがきかない
人生の
観客一人の冷酷な演劇の終末に
なすすべもなく向かっている。

無意味な抵抗であることはわかっている。

ただ、一度
確かに出会い
確かに存在を確認し

その記憶を
その想いを

精一杯生きた証として
書き留め、
伝えたいのだ。