遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

黄昏に  立原道造

暑苦しかった日々が続いたが、漸く涼しくなった。
学生時代、建築家で詩人だった立原道造の「黄昏に」という詩に出会い、
自分の境遇と重ね合わせ
晩夏の夜道を一人暗唱しながら歩く日が続いた。

「すべては徒労だったと告げる光」という言葉に

虚しく過ぎ去った時間と寂寥感に満ちた心理的情景が見事に凝縮されている。

あの時代
確かにそのとおりのことばかりが続いたのではあるが、
その一方
その後のすべての時間が、徒労だったとは思いたくないと
抵抗し続ける
もう一人の自分がいることは確かである。

 

黄昏に

すべては 徒労だつた と
告げる光のなかで 私は また
おまへの名を 言はねばならない
たそがれに

信じられたものは 美しかつた
だが傷ついた いくつかの
風景 それらは すでに
とほくに のこされるばかりだらう

私は 身を 木の幹に凭せてゐる
おまへは だまつて 背を向けてゐる
夕陽のなかに 鳩が 飛んでゐる

私らは 別れよう……別れることが
私らの めぐりあひであつた あの日のやうに
いまも また雲が空の遠くを ながれてゐる