遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

わがひとに与ふる哀歌  伊東静雄

うだるような暑い日が何日も続いている。
伊東静雄の二編の名詩を青空文庫から見つけた。
冷たい麦茶か、アイスクリーム代わりになればと思いつつ、転載する。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001197/files/45280_18540.html

 

冷めたい場所で

私が愛し
そのため私につらいひとに
太陽が幸福にする
未知の野の彼方を信ぜしめよ
そして
真白い花を私の憩ひに咲かしめよ
昔のひとの堪へ難く
望郷の歌であゆみすぎた
荒々しい冷めたいこの岩石の
場所にこそ

 

わがひとに与ふる哀歌

太陽は美しく輝き
あるひは 太陽の美しく輝くことを希ひ
手をかたくくみあはせ
しづかに私たちは歩いて行つた
かく誘ふものの何であらうとも
私たちの内(うち)の
誘はるる清らかさを私は信ずる
無縁のひとはたとへ
鳥々は恒(つね)に変らず鳴き
草木の囁きは時をわかたずとするとも
いま私たちは聴く
私たちの意志の姿勢で
それらの無辺な広大の讚歌を
あゝ わがひと
輝くこの日光の中に忍びこんでゐる
音なき空虚を
歴然と見わくる目の発明の
何にならう
如かない 人気(ひとけ)ない山に上(のぼ)り
切に希はれた太陽をして
殆ど死した湖の一面に遍照さするのに