遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

風のいたずら

同窓会に行くと、学生時代美人だった人が見る影もなくなり、そうでもなかった人が普通のオバサンになっているとする説が定説のようだが、大学時代のあの人は違った。

ある時、車でドライブしていたとき、日曜学校の門を開け、小学校六年生くらいの息子さんとニコニコしながら手をつないで出てくる同じ年くらいのお母さんをみつけた。

髪が長く息子さんと手をつなぐその姿は幸せそうだったが、小学六年生くらいの息子さんと手をつないでいるので母子家庭のように見えた。

息子さんの方から手をつなごうとしていることから、息子さんはお母さんを励まそうとしているようにも見えた。

その光景が、微笑ましかったので、私は、車の運転席からじっと眺めていた。
そのお母さんもなぜか私の方を見ていた。

やがて、突然風が吹き、そのお母さんの長い髪が、ゆっくりと風にそよいだ。

たった、数秒のことだったが、私には数分間のことのように思えた。

私は、「あっ!」と思った。

忘れもしない彼女だったのだ。

昔は、ギリシア彫刻のようだったが、今は、ルーブル美術館所蔵の誰もが知るあの名画のイメージそのものだった。

そして、彼女が彼女であることを知らせるために、二十数年ぶりに風が吹いたことを私は理解した。