遠い夜空のオリオン

幼馴染との淡い想い出を綴る私家版郷土史

初恋を予言した人

私に初恋を予言した人がいた。

母だった。

その女の子は、となりのクラスのピンクのとっくりのセーターが似合う、幻想的な雰囲気の女の子だった。
頭が小さく、細身で、切れ長の目と透き通るような白い肌が印象的だった。
その女の子は、小学校5年のときの転校生で直後から同じクラスの男をこてんぱんにするので瞬く間に父兄の間で有名になっていた。
母は、こてんぱんに打ち負かされ相手にしてもらえない男のお母さんからその女の子の悪女・悪行ぶりを面白がって何度も私に聞かせた。
しかし、そんな彼女であったが、彼女は実は、小学校の教師のセクハラを受けていた。彼女をダッコして膝の上に載せていたのだそうだ。その事も学校の父兄の間では何度か話題になっていた。

私は、なんとなくその子のことが気になり、言葉は交わさないものの、週に1度の学校朝礼のときに、彼女の方ばかり見つめ、彼女とペアルックのデザインとなるべく、水色のとっくりセーターを母に編んでもらった。

そのセーターを着てからは、朝礼の時、卒業の時などは、何度か彼女と目で挨拶するようになった。
そして、それからまもなく、問題が発生した。

家に帰ると、母がとなりのクラスのあの女の子だけには気をつけなさい。おなたにはその女の子はふさわしくない人です。と母は何度も言うのであった。
それは一度だけではなかった。

そして、中学校に進学し、同じクラスになった。
相変わらず、○○という女の子が同じクラスにいるはずだが、母はその子のことを好きになってはいけない。大人になったらもっといい人が現れると何度も私を諭した。

中学校入学後もその女の子には、自分から話しかけることはなかったが、彼女は、何度か私に話しかけてきた。
運動会のリレ競技ーの直後で、彼女のことを好いているが彼女がとことん嫌っている男から私が抜かれ内心しょげている私に、「○○君はリレーで精一杯走っていたのを私は知っているので決してガッカリしないで」と言われた。

そして、運命の7月15日が来た。
その日に私は、彼女が転校することを初めて知った。
まず担任が、春から転校のことを知っていたので皆さんに転校することを知らせないできたが、今日は転校するご挨拶をすると切り出した。
その後で、彼女が一言、簡単に事務的に挨拶した。
「半年前から転校することがわかっており、皆さんとお別れするのはつらいが、皆さんのお気持ちを考え転校することをお知らせせず、今日まできてしまった。今日までいろいろありがとう。」とのことであった。

突然の衝撃に、どうしていいかわからず、彼女になんと言っていいかわからず、彼女を追いかけ、学校玄関の前で一目見てから、すぐ塾行きのバスに乗った。
塾帰りのバスが物凄く蒸し暑く、塾の同級生だったK君がその女の子が転校することをなぜか知っていた。

そして、その晩、長い夢を見た、夢の最後に、みたことのない女性がなぜか現れた。

それから、2カ月たって、学校に手紙が来た。友達がほしいと、便箋二枚にわたって達筆な字で書いてあった。
きっと彼女は転校先で辛い思いをしているのだろうと、その時思った。
しかし、私は、どうしていいかわからなかった。どう手紙を書いていいかもわからなかった。

今、思うと、中学1年生にしては落ち着いた老成した女の子だったのだろう。

それから10数年たち、私はある女性と結婚した。
その女性は、7月15日運命の日の夢に現れた人のイメージにまったくそっくりの人だった。

それから、30年立ち、父から母の見合い写真を託された。

写真を見て、私はびっくり仰天した。
なんと写真は、7月15日に転校していったあの女の子に瓜二つだったのだ。